CC32号94年1月


ツーリング時の常備薬(2)ブレーキトラブル


西尾 隆広

 前回は最低限携行するべき工具類とオーバーヒート時の対処法・常備薬について講義を行いました。今回はブレーキトラブルについて解説いたしましょう。過去の我がクラブのツーリングでもブレーキトラブルは割と発生しています。幸い大事に至ったことはありませんが、愛車のブレーキの構造を事前に知っておき、簡単な応急処置はできるようにしておきましょう。

 MGなど古い英国車のブレーキは一系統しかなく、どこかでブレーキ液が漏れたりすると命にかかわる事故につながる可能性もあります。ブレーキは常に点検し、できれば車検の度にOHするようにしましょう。ここではとりあえずブレーキシュー(パッド)はまだ十分残っており、調整もできており、さらにフェードやべ一パーロックを起こしていない正常状態を想定してトラブル対処と常備薬について解説します。

《トラブルバターン A》… ポンピングしないと効かない
走行中なんとなくブレーキの効きが甘くなってきたようだ。ポンピングいないとブレーキが効かないようになってきた。こんな時はどうすればいいの?

 ブレーキ液がどこかから漏れています。すみやかに車を停車させてマスターシリンダーのブレーキ液量を点検して下さい。かなり減っているはずですので補充して下さい。このままでもポンビングをすれば何とかブレーキは効きますから走行は可能ですが、車間距離を十分とってゆっくり走行することと、時々ブレーキ液を補充するのを忘れないように。
 マスターシリンダーを点検した時にブレーキ液が空になっていたら、ブレーキラインにエアが混入している可能性があります。まずブレーキ液をいっばいまで補充してブレーキベダルを踏んでみましょう。割としっかりとした踏応えがあり、かつポンピングをすれば踏み応えが固くなってペダルの位置が上がってくる場合はこのまま走行を続けても差し支えないでしょう。ただし車間距離の保持と時々液を足すのは先の場合と同様です。しかしペダルを踏んでみてまるでスポンジを踏むような感覚でしたら、ブレーキラインにエアが混入しています。無理をすれば走れないこともないのですが、安全のためにエア抜きをしましょう。エア抜きの方法は最後に図解しておきます。慎重に走行して自宅または修理工場までたどり着いたらきっちりとブレーキ全般のOHをすることをおすすめします。ブレーキの液もれはブレーキライン全体が古くなっている場合に起こることが多いので、特にマスター・ホイールシリンダー全部のカップゴム及びブレーキホースの交換、ブレーキパイプのジョイント部分の点検をしっかり済ませておきましょう。

《トラブルバターンB》…‐ブレーキペダルを踏み抜いた
走行中、突然ブレーキペダルが軽くなって踏み抜いてしまった。全然ブレーキが効かない。一体どうしたもんだ?

 緊急事態です。ダブルクラッチを駆使してシフトダウンをし、ハンドブレーキを目一杯ひいてとにかく車を止めて下さい。くれぐれもオカマだけは掘らないように。原因は2つ考えられます。ブレーキホースが破裂したか、またはマスターシリンダーかホイールシリンダーのカップゴムを踏み抜いてしまったかのどちらかでず。前者のケースは稀ですが、筆者はカニ目で経験したことがあります。この場合は破裂したホースを交換し、エア抜きを行えば復活します。多くは後者のケースで、この場合は破れたカップゴムから大量のブレーキ液が流れ出ているはずです。もしも破れが軽微で、さらに腕(足)に相当の自信があればブレーキ液の補充だけで走行することは不可能ではありませんが、ここではそのような無茶は絶対にお奨めしません。諦めてJAFを呼ぶか、自信と経験のある方は路肩で修理工場を開いて下さい。ただしテクニックも基本的な知識も少し必要ですし、1〜2時間はかかることを覚梧しておいたほうがよいでしょう。また法律上は3級の自動車整備士免許がないとブレーキはいじってはいけないことも認識して下さい(みんな免許がなくてもやっていますが)。

 まずとのカップゴムが破れているか調べます。車体をジャッキアップして一輪ずつホイールを外します。ドラムブレーキの車輪はドラムも外してしまいます。ブレーキ液が流れ出した跡があるホイールシリンダーを見つけたらブレーキシューを外し(シューを固定しているスプリングは非常に固いので注意)シリンダーをバックプレートに付けたまま分解します(ホイールシリンダーのアッセンブリ一を携行している場合はアッセンブリーで交換したほうが楽です。外したシリンダーは自宅に持ち帰ってからOHして次回のトラブルに備えましょう)。ゴムのダストキャップを外し、サークリッププライヤーでサークリップをはずし、細かい部品に注意しながらピストンを引き抜いてカップゴムを指でこじり出します。カップゴムは指や鉛筆の後ろなどで端の方をつつくと斜めになってつまみやすくなります。またピストンやカップが抜けにくい場合は少しポンビングしてみて下さい。激しくポンピングするとピストンが勢いよく飛び出してきますのでウェス等でシリンダー全体を緩くくるんでおきましょう。タンデムシリンダーの場合は2個、シングルシリンダーの場合は1個のカップゴムが入っていますが、全部を新品に変えて組み直します。カップゴムをシリンダーに挿入するときは向きを間違えないように垂直に挿入して下さい。スプリングやワッシャーやピストンも分解時と逆の手順で組みつけます。そしてブレーキシューに付着したブレーキ液をきれいに拭き取ってからシューを組み付けてください。2つのシユーを引っ張っているリターンスプリングはかなり嵌め込みにくいのですが、ラジオペンチなどで頑張って組み込んで下さい。あとはドラムとホイールを取りつけ、エア抜き(後述)をすれば完了です。
 ディスクブレーキのリングゴム(カップゴムに相当する)は滅多なことでは千切れたりしませんが、万一の時のためにリングゴムの交換方法も書いておきます。キャリパーからブレーキ液が流れ出ている場合はその可能性もありますので。まずブレーキパッドを外してからブレーキペダルをポンピングして下さい。するとピストンがブレーキディスクに当たるまで飛ぴ出てきます.その後キャリパーを外し、ピストンを引き抜くとリングゴムも一緒に出てきます。新品のリングゴムをピストンの溝にはめ込み、ピストンをキャリパーに圧入します。キャリパーをブレーキディスクを挟むように取りつけ、パッドを差し込めばあとはエア抜きをして完了です。さて、ホイールシリンダーに異常が見られない場合はマスターシリンダーです。マスターシリンダーの構造は車種により様々ですのでここでいちいち述ぺる訳にはいきませんが、分解してカップゴムを交換する手順はほとんど同しです。ただ車種によりペダルを外してマスターシリンダー自体を取り外さないとカップゴムの交換ができないこともありますので注意して下さい。そのような場合はマスターシリンダーもアッセンブリーで持っていると便利です。

《トラブルパターンC》…ブレーキが引きずっている
 どうもどこかブレーキが引きずっているようだ。ペダルの踏み応えもかなり重いし、戻りもだんだん悪くなる。つま先で引っ張りあげないと戻ってくれないようになってきた。気持ち悪いので何とかしたい。

 ブレーキホースの内部亀裂によるブレーキの引きずりです。簡単にいえばブレーキホースが内部破裂して動脈硬化?を起こし、ブレーキ液の流れ(マスターシリンダーへの戻り)が悪くなっているのてす。
 まずどのホースが詰まっているか調べます(フロントは左右1本ずつ、リヤはセンター(デフの付け根)に1本の計3本のホースがあります)。ホイールに触ってみれば他より熱くなっていますので、どこのブレーキが引きずっているかすぐにわかります。その後はブレーキホースの交換とエア抜きだけで完治しますので、常備薬としてホースのスペアとブレーキ液さえ持っていれば心配配することはありません。もしホースのスペアがない場合は苦労しますのでスペアホースは持っておくようにしましょう。ところでレース用のアールズなど、ステンレスメッシュ製のブレーキホースの場合はこのようなトラブルはまず見られませんので、オリジナルにこだわらない方は事前に交換しておくことを勧めます。

ブレーキトラブルの常備薬
・ ブレーキオイル(DOT3以上)
・ ブレーキリペアキット(カップゴム、リングゴム)
・ ブレーキホース(フロント2本、リヤ1本)
・ 耐湯シリコンチューブ18メートル(次に解説するエア抜きに必要)
・ ホイールシリンダー・アッセンプリー(もしあれば)
・マスターシリンダー・アッセンプリー(もしあれば)

特別付録一人でできるブレーキラインのエア抜き

 さてここでエア抜きの方法について解説します。2人以上いればエア抜きは簡単ですが、筆者考案の、ブレーキ液を一滴も漏らさず一人でやる場合の秘法?(そんなに大したものではないのですが)を公開しましょう。
 用意するものは透明な耐油シリコンチューブ(ラジコン模型用、内径4m mぐらい)を約18メートルだけです。このチューブを6、5、4、3メートルに切断して準備OK。まず各車輪のバックプレートについているブレーキのエア抜き用ニップルを締め込んだ状態でマスターシリンダーのキャップを明けてブレーキ液を一杯まで満たします。そして各ニップルにチュープを接続し、反対側をマスターシリンダーのブレーキ液補充口に差し込み、ウエスで液が飛散しないよう軽くふたをします。この際、当然ですがマスターシリンダーから遠いニップルから順に6、5、4、3メートルのチュープを接続します。これでニップルを開くとブレーキ液が全体を循環するシステムができました(下図参照)。
 各ニップルを緩めてしばらくブレーキペダルをポンピングしてみて下さい。やがてチューブにブレーキ液が流れ込んできます。はじめのうちはところどころに気泡が見られまずが、ぞのうち液だけが循環するようになります。ブレーキ液がブレーキラインや各チューブに流れる分だけ滅ってきますので、時々マスターシリングーの液量をチェックして補充するのを忘れないように。またニップルを緩めすぎるとそこからエアが混入することがあるので注意して下さい。その場合はいつまでポンビングしても
チューブ内の気泡がなくなりませんので判断できます。
 ブレーキ液がこのシステム全体を循環して満たしたら、各ニップルを閉じます。あとはチューブを一本ずつ外し、そこに残ったブレーキ液をボディーにたらさないようにボトルに戻せば完了です。ブレーキ液は塗装面を溶かすので十分注意して下さい。

クリーム・クラッカースのページへ戻る