CC31号93年8月
             ツーリング時の常備薬(1)

西尾 隆広 

 MGに限らず古い英国車でのツーリングは本当に楽しいものです。でも、故障が怖くてなかなか長距離を走る気にならない、という方が結構多いのが実情ではないでしょうか。
 クラプの仲間たちと連なって走るときは誰かメカに強い奴に「おんぶにだっこ」でも、単独で走るときはいつ襲ってくるかわからないトラプルを怖れるあまり、愛車をドライブに連れ出せずにいるクラブ員もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そこで本講座では、今回より数回にわたってトラプル時に役に立つ「常備薬」と簡単なトラプル対処法について講義を行います。トラブル項目ごとに常備薬を掲げておきますが、全部が必要というわけではありません。各愛車の整備具合にしたがって不安な場合にのみ必要な常備薬を携帯して下さい。たとえばブレーキのOHをしたばかりの車にはブレーキ関係の常備薬は特に何も携行しなくてOKですが、長い間手を付けていなくて不安がある場合は常備薬もブレーキホースやらリペアキットやら多数必要です。もちろん工具類は車載工具だけでは不十分です。これから講義する各トラブルに専用の常備薬以外に最低次の工具類は常にトランクに積んでおくようにしましょう。

常に携行しておきたい工具類

各サイズのスパナ(インチ、ミリ両方あった方が良い)
各サイズのソケットレンチ・ラチェットレンチ(同上)
ドライバー(マイナス・プラス各3サイズ、プラスはポジドライプのもの)
棒やすり(丸・角など数種類、1本にする場合は半丸が便利)
耐水ぺ一パー(400番程度)
カッターナイフ            ニッパー
プラグレンチ             ラジオペンチ
モンキーレンチ            プライヤー
ハンマー(普通の金槌)        サークリッププライヤー
しんちゅうブラシ           懐中電灯
ジャッキ               牽引ロープ
CRC  針金
エンジンオイル            予備の配線
ヒューズ               ビニールテープ
アロンアルファ            ガムテープ
ウエス                JAFカード
愛車の整備マニュアル         住所録(友人宅・修理工場)

では読者の方もこの講座テキストをコピーして愛車のダッシュボードに忍ばせておいて下さい。

1.オーバーヒート

 オーバーヒートの症状は次の3通りが考えられます。たいていA又はBの症状ですから慌てることはありませんが、Cの症状はちょっと厄介ですので落ち着いて対処して下さい。

トラブルパターンA ゆっくりと水温が上昇する場合

 快適な高速ツーリングを楽しんでいると、じりじりとゆっくり水温が上昇していきます。心なしかパワーも落ちてきたような感じ。摂氏100度(華氏約212度)を越えてしまって、これは明らかにオーバーヒートです。さてどうしたらいいのでしょうか?

 単なる冷却能力不足によるオーバーヒートです。夏場気温が高い時にによく見られます。まずヒーターを全開にしましょう。人間の方はますます暑くなりますが、ヒーターコアがサプ・ラジェ夕一の役目をして水温は安定するはずです。あまり効果のない場合はすかさずチョークノプを引っ張りましょう。シリンダーに多目のガソリンが流れ込みエンジン内部の温度を下げる働きをします。それでも駄目な場合は原始的な方法を採りましょう。しばらく休んでエンジンを冷やします。人間の体力も回復しますので一石二鳥です。
 ところで、オーバーヒートしやすい車には事前の対策としてラジエターにクーラントを適量入れておけばよいでしょう。クーラント不凍液のように水の凝固点を下げると共に沸点を上げる働きもあります。沸点が上がれば摂氏100度を越えてもオーバーヒートしにくくなります。

トラプルパターンB 水温計の針が変な動きをする場合

 のんぴりと街中を流していると、水温計の針の動きがどうも変だ。針が大きく振
れたかと思えば振れ方が急に小さくなったりする。一体何度を指しているのかよく
わからない。どうすればいいの?

 気温がそれほど高くない時に冷却水が極端に減っているとこのような症状が見ら
れます。出かける時に水の点検はしましたか?きっと鷺くほど水が減っているはず
です。補袷をすればOKです。

トラプルパターンC 水温計の針が急激に上昇した場合
 気がつくと水温計の針がどんどん上昇きます。摂氏100度はおろかアッと言う間
に振り切ってしまいました。どうしよう?

 水温計の針が突然急上昇を始めたらとにかく直ぐにイグニッションをオフにして
車を止めて下さい。無理にエンジンを回し続けるとピストンの焼き付きそして最悪
の場合はエンジンプロックの破壊という事態が待っているだけです。
 まず冷却水が冷えてからラジエターキャップを開け、冷却水を補充します。あふ
れるまで入れて下さい。そしてファンベルトのたるみ具合を点検してからエンンを
掛けます。エンジンが回る様子を良く観察して次の(a)〜(f)のどれが原因かを
突き止めて下さい。

(a)冷却水の不足
 水漏れもなくファンベルトも滑っておらず電動ファンもしっかり回っている場合
は冷却水の不足と考えられます。水温がある程度上がって圧がかかればどこかから
水漏れを始める場合もあるので、しばらく様子をみて特に異常が見られないようで
したらツーリング再開です。

(b)ラジエターまたはラジエターホースからの水漏れ
 水が漏れている場合は、まずどこから漏れているかを突き止めてください。ヒー
ターコアやヒーターホースから漏れている場合はヒーターコックを締め切ってしま
います(ヒーターが効かなくなりますが我慢しましょう)。またラジエターホース
の接続部から噴き出している場合はクリップを締めつけてみます。それでも水漏れ
が止まらない場合は一旦ホースを外して水道工事用のシールテープを巻いてみます。
それでも駄目な場合は再びホースを外してバスコークをぬりつけます。ラジエター
ホースのひび割れ部分からの水漏れの場合もバスコークを塗りつけてビニールテー
プでグルグル巻きにします。バスコークを使用しても余り効果がない場合やコア自
身からの水漏れの場合、漏れがそれほどひどくない限りラドウェルド(英ホルツ社
製が良い)を注意書きにしたがって注入すれば解決するでしょう。

(c)ファンベルトの不良
 ファンベルトが規定値以上にたるんでいると、ウオーターポンプが回らないばか
りかダイナモ・プーリーも回らずに発電してくれません。まずたるみを規定値(大
体1.5cm程度)に調節して下さい(調節の仕方はダイナモの取付ボルト3本を緩めて
ダイナモをスライドさせることで可能です。これは英国車に限らずどの車も殆ど共
通です。ただしベルトを張り過ぎないようにしてください。ダイナモやウオーター
ポンプのメタルを痛めてしまいます。ちょっと緩めが適当です)。もしファンベル
トが切れている場合は予備の物と交換します。ダイナモ取付ボルト3本を緩め、ラ
ジエターコアを痛めないように冷却ファンとラジエターコアの隙間にファンベルト
を通し、クランクプーリー、ウオーターポンププーリー、ダイナモプーリーの順に
掛けます。結構力が要りますが頑張って下さい。もしファンベルトを持っていない
場合は女性用のナイロンのパンティストッキングで代用できますが、長距離には耐
えられませんので最寄りのガソリンスタンドかカーショップまでの応急用と考えて
下さい。

(d)ウオーターポンプの故障
 ウオーターポンプから水が漏れているときはウオーターポンプの故障です。漏れ
が軽徴な場合は水を継ぎ足しながら走行することも可能ですが、漏れがひどい場合
はポンプを交換する必要があります。ウオーターポンプの交換はそれほど難しくあ
りませんし、それほど時間もかかりません(車種によって違いますが最大1時間程
度、ただし口一タスのツィンカムエンジンの場合はメチャクチャ厄介ですので交換
は諦めて下さい)ので挑戦してみましょう。まずファンベルトを外し、ウオーター
ポンププーリーと冷却ファンを外せば後はボルト数本でウオーターポンプ本体も外
れるはずです(車種によってはラジエターのシュラウドを外す必要がある物もあり
ます)。古いガスケットをスクレイパー(無ければカッターやマイナスドライバー
など)できれいに剥がし、新品ガスケット(新品のウオーターポンプに付属してい
る)を使用して新しいポンプを逆の手順で取付け、最後に水を補袷すれば完了です。
 英国車、特にAタイプエンジンのウオーターポンプは拮構壌れやずいので、できれ
ば予備のポンプを常携することを薦めます。もし予備のウオーターポンプを持って
いない場合は水を足しながら最寄りの修理工場まで運ぶかレッカー車を呼ぶしか方
法はありません。この場合はJAFカード(最後の切り札?)がないと高くつくので
ご注意あれ。

(e)電動ファンの故障
 電動ファンが回らない時はまずヒューズを点検して下さい。ヒューズが切れてい
れば予備に交換して(アンペア表示に注意)様子を見ます。ヒューズが切れていな
い場合は別の原因を探す必要があります。年式の新しいMGBなどでは電動ファンは
はじめから付いています(サーモスイッチ付きの自動タイプ)が、それ以外の車種
の場合は殆ど後付けのはずです。前者の場合はたいていサーモスイッチの不良が原
因です。電動ファン上部に付いているコネクターを引き抜いて針金などで直結すれ
ば、ファンはとにかく回り続けてくれます。また断線の場合はつなぎ直せば良いの
ですが、ファンモーター自体の故障や原因が分からない時は、ファンは初めから無
いものと割り切って、先に説明した「トラプルパターンA」の対処法に従って下さ
い。後付けの電動ファンの場合は、配線の断線かファンモーター本体の故障ぐらい
しか原因は考えられませんが、その場合も同様に対処して下さい。

(f)サーモスタットの故障
 冷却水も入っているし水漏れもない、ファンベルトも正常だけど水温だけが異常
に急上昇した、と言う場合はサーモスタットが故障して閉まった状態で固着したと
考えられます。ラジエターの水は沸騰するほど熱くはないのに、なぜかオーバーヒ
ートする、と言う症状が見られまず。サーモスタットの役目は、特に冬場にラジエ
ターの水全部が循環ずることによるエンジンの冷えすぎ(オーバークール)を防止
することです。要するにサーモスタットの開閉でラジエターの水の循環量をコント
ロールする訳です。水温が低い時はエンジン内部のウオーターラインに入っている
水だけが循環してエンジンを冷やしますが、その水が熱くなってきて冷却能力が不
足してくるとラジエターとエンジンのウオーターラインの間にあるサーモスタット
が開いてラジエターの水も循環するようになります。このサーモスタットが故障し
て閉じた状態で固着するとラジエターの水は循環せず、冬場でもすぐオーバーヒー
トしてしまいます。この場合はサーモスタットを外してしまいましょう。ラジエタ
ーのアッパーホースがエンジンと繋がっているところにサーモスタットのハウジン
グがあります。この取り付けナット3個を外し、ガスケットを傷つけないよう注意
してハウジングを外します。するとサーモスタットが現れますからこれを外してし
まってください。あとは逆の手順でハウジングを組みつければOKです。もしもガス
ケットが破れてしまったりしたら(b)で使ったバスコークを盛って水漏れ防止を
図ってください。

オーバーヒート時の常備薬
・水(ジュースなどのペットボトルを2〜3本)
・水道工事用のシールテープ
・水道工事用バスコーク(小さいチュープ入りのものでOK)
・ホルツ社製ラドウェルド2〜3本
・予備のファンベルト(応急用なので中古でも良い)
・パンティストッキング(隣に女性が乗っている場合は不要)
・予備のウオーターポンプ(車種・年式にあったもの)

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