The birth of "ADDER"
part.4 : MGB TWINCAM


「MGB再生計画」において、当初の計画の中には2000トDOHC4気筒 M16エンジンというプランがあったがこちらは採用されなかった事は前述した。
 これは想像ではあるが、MGB/GT V8で実績のあるローヴァV8搭載 に比べればM16搭載は初の試みであり、施さなければならない改造範囲が大
きかったのではないかと思われる。
しかしその「MGB TWINCAM」とはいかなる車だったのか?
 このコンセプトを実際に実行に移した人間がいる。英国で発行されているM G定期刊行物である「MGエンシュージャスト・マガジン」1991年8月号に掲載されたレポートを見てみよう。
 因みにRV8が発表されるのは、約1年後の事である事に注意されたい。

 実はこの人物こそ、アダー・プロジェクトを発動させる直接のきっかけとな ったMGBトゥアラーV8コンバージョンの持ち主、ロジャー・パーカーである。
 彼はMGBスペシャリストであるジョン・ヒルの店「MGBセンター」の協 力を得て、このMGBツインカムを試作した。
 ベースとなったのは無論MGBヘリテイジ・ボディである。そこに搭載され るM16エンジンはローヴァ820サルーンからピックアップされた物だが、実はこれはMGBの最末期に延命策の一つとしてBタイプからのコンバージョンも計画されたOシリーズ・エンジンの流れを汲んだエンジンである。
 1994ccDOHC4気筒16バルブ鋳鉄ブロック/アルミ・ヘッドのこの エンジンをMGBに搭載するにあたってはマルチポイントEFIが組み合わされ、140ps/6000rpmの最高出力と18.1kgm/4500rpm のトルクを発生する。
 この数値はMGB/GT V8と比較して3ps多く8.5kgm少ないことに なるが、ノーマルのMGBと比べれば45ps/2.9kgm大きい。
 ただし元々の持ち主であるローヴァ820は横置きFFであり、これをMG Bに搭載するに当たってはFR用のトランスミッションを組み合わせる必要があった。
 選ばれたトランスミッションは後のRV8や多くのMGBトゥアラーV8コ ンバージョンなどと同じローヴァ3500サルーン(SD1)用のLT77型5速マニュアルであった。
 M16の搭載はローヴァV8を搭載するのに必要な手順に似ていると言われ ロジャー・パーカーが作り上げた車の仕上がりは非常にきれいである。ローヴァV8の場合とは異なり、ラジエーターの位置はMGBメッキバンパーと同じく後退している。
 特注のプロペラ・シャフトで接続されたディファレンシャル・ギアはノーマ ルMGBと同じ物が使われた。
 EFIに加えデジタル式点火機構を備えているM16を搭載するに当たって は燃料ポンプや電気系の変更が必要であった。これらの変更は複雑さを増すものの、エンジンの安定した制御が可能になったということでもある。また同時にこれは良好な燃費と無鉛ガソリンの使用を可能にした。
 足回りは車高を下げ、シュック・アブソーバーを強化、さらに前後ロールバ ーをロン・ホプキンソン製に交換するなど数々の手が加えられている。

 この車両自体はまだ開発の余地を多く残しているものの、「 '90年代のM GB」という基本コンセプトの有効性を感じさせるものだったという。
 しかし1991年始めから制作に取りかかり5月に完成したこの車を生み出 したロジャー・パーカーとロン・ホプキンソンは、あくまでこの車はプロトタイプであり開発車両であるので、売り出したりコンバージョン用キットを販売するもりはない、と語っていた。

 具体的にMGBツインカムのドライヴ・フィールはいかなるものだったのだ ろうか?ハンドリングに関してはセッティングによって変化するしエンジン換装と基本的に直接の関連はないので無視するとして、エンジンに関連したこととしては「MGエンシュージャスト・マガジン」では「俊敏なスロットル・レスポンスと現代の車と遜色ない動力性能」とだけしか記述されていない。
 残念ながらM16エンジンの重量が不明なためにノーマルMGBと比較した 前後車重配分は不明だが、設計が格段に新しいとは言え鋳鉄ブロック+アルミDOHC16バルブ・ヘッドという点からするとBタイプと同等か、あるいはそれ以上というケースも考えられる。
 しかし「LT77+ノーマル・デフ」という駆動系レイアウトは僕の愛車B ee−3とまったく同じであり、それからある程度の推測は可能である。

 まず絶対パワーの向上とDOHC16バルブ構造は軽いエンジンの吹け上が りと高速域での伸びをもたらし、約3kgmのトルクの増加はノーマルMGBより も素早い加速を可能とする。
 しかし反面ノーマルMGBとほぼ同等のオーヴァオール・ギア・レシオは相 対的にクロース・ギアと同じ効果となり、結構忙しいシフト操作を要求されるかも知れない。これはギア比は同じでもトルクに関してはM16を10kgm以上も 凌駕するBee−3の場合、1−3−5シフトで済むのとは好対照と言える。
 総じて言えばデータから読み取れる範囲において、MGBツインカムはトル クで走るよりもギアを選ぶことで高回転/高馬力を引き出して走るという、より一般的な「スポーツカー・ドライヴィング」の概念に近い走り方に適している車だと言えるだろう。
 ただし絶対的な動力性能を見た時、最高速度ではエンジンの限界回転数の高 さ(ローヴァV8エンジンとは2000rpm近い差があると思われる)でMGB ツインカムが勝っているが、加速ではトルクの太さでBee−3の方に分が有ると見て良いのではないだろうか。
 RV8との比較をするならば、190psを誇る3.9リットル仕様ローヴァ V8エンジンと高いギア比のディファレンシャルの組み合わせは、RV8をしてMGBツインカムと同等の最高速度とより俊敏な加速をもたらすのではないだろうか。

 時期的にはこのMGBツインカムの制作が始まった1991年始めの時点で はすでにRSPではアダー・プロジェクトの始動が始まっており、「MGBアップ・デイト計画」はMGBトゥアラーV8コンバージョンを基本とすることが固まっていた。
 しかしその発端となった車の所有者であるロジャー・パーカーがBMHのデ ヴィッド・ビショップと共にMGBツインカムのコンセプトを作り上げ、ローヴァが落としたこのアイディアを自分の手で具現化するべく実行したのがこの車である可能性は極めて高いのではないだろうか。




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